iPod nanoに関して

Appleのグレッグ・ジョスウィック副社長が来日し、複数のメディアでインタビューに答えているが、その中でいくつか興味深い発言があったので紹介したい。

  • >日本には、匠の技術を重んじる風潮があります。また、小型化したものに対して、魅力を
    >感じてもらえる国民性がある。そうした人たちに、iPod nanoは、きっと最適の製品だと思
    >いますし、世界中で、最もその価値を理解してもらえる国だと考えています。

日本人の好み、特性をよく理解した発言である。はるか昔から日本の職人の技術は、「神は細部に宿る」という言葉に表されるように、精緻な細工を尊ぶものであった。それであればこそ、高密度の実装技術を伴った日本の小型電化製品が多く誕生し、広く受け入れられてきたのである。今回のnanoを早々と三枚おろしに分解した写真を見たが、その高密度化には驚くばかりである。本来こうした小型化を最も得意とすべきSONYが、安易な外観偏重主義に陥った製品(具体的にはA-3000)をだすことは残念でならない。

  • >他社の携帯オーディオプレーヤーが機能ばかりを追求し、その機能に魅力を感じる人を中
    >心に広がっていますが、iPodは純粋に音楽を楽しむ人に対して広がっている。iPod nano
    >iTunesの組み合わせは最強です。音楽を楽しむという使い方をさらに加速させる製品にな
    >りますよ。(以上http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20050908/apple5.htmより)

私はiPodの大ヒットの秘訣は、一つにはその製品自体の素晴らしさもあると思うが、やはりiTunesというソフトウェアとの連携の成功にあると考える。PCにおける既存のCDからのライブラリの構築にかかる労力及び、それをポータブル機器で外に持ち出す労力をiPodiTunesの連携は徹底的に削ったのである。さらにiTMSの登場により、新たな音楽を手に入れる労力、費用の削減までもがその枠組みに組み入れられた。これらの仕組みのトータルな創造・提供こそが、まさにAppleの一人勝ちの最大の要因であろう。ガチガチの著作権保護を方針としてきたSONYが今更これを後追いしようとしても、周回遅れもいいところである。

  • >iPodにとってデザインの連続性は非常に重要なことだ。

>ほかのメーカーを見ると、新しい世代の製品を出すたびにこれまでの世代を全て投げ出し
>てしまうところも多い。出てきた製品はこれまでと全く違うものになり、使い方も全く違
>うものになってしまっている。
>しかし、iPodは違う。第1世代を使ったことのあるユーザであればminiをすんなり使えるだ
>ろうし、miniのユーザはnanoをすんなり使えるはずだ。
>デザインが連続している必要がある…… これは、元々大きな顧客ベースを持ち、そしてリ
>ピートユーザが多い我々にとって重要なことだ。そして、iPodの使いやすさが彼らからさ
>らに口コミで伝わっていく、ということもあって、非常に重要視している。
iPodアイデンティティであるクルクルホイールは、初代のメカニカルホイールと外周のボタンの組み合わせから、現在の全てをホイール上で行えるクリックホイール式まで四世代を経ている。そこで重要なのは、初代から現在まで、操作方式が全く同一で、ただユーティリティのみが改善されてきているという事実である。これこそが本当の意味での製品の「改良」というものであろう。iPodが一つのイコンとなる一因である。

  • >そう。エンジニアリングという観点から見ても、異なる世代間・フォームファクタ間で同
    >じデザイン要素を持たせるというのはすごく難しいことだ。そしてこのデザインの連続性

>こそがiPodのIDなんだと思う。
>ところで、私はiPodのデザインについて「シンプル」というよりは「ピュア」という言葉
>を使いたい。というのも、シンプルというと余りデザインをやっていないように聞こえて
>しまうかもしれない。しかし、ピュアなものを作るためには実はそこにたくさんのデザイ
>ンを詰め込む必要がある。我々がやっているのはまさにそういうことだ。
>複雑なものに対して「デザインされすぎている」という印象をもつかもしれないが、そう
>ではない。それはデザインが足りないから複雑になってしまうんだ。ピュアなものを作る
>ことにこそ手間と時間をかけていく必要がある。(以上http://pcweb.mycom.co.jp/articles/2005/09/09/ipod/より)
この文章には非常に感銘を受けた。モダンデザインの真髄に言及しているのである。一見「シンプル」に見えるデザインの中にこそ、多くのデザイン及び細心の注意が内包されておらねばならない。